言語聴覚士のひとりごとBlog

「学生さんや新人さんが理解しやすいように」を目標に、失語症・高次脳機能障害やST業務、書籍や文献の紹介など書いていきます。

【番外編】発語失行と音韻性錯語の鑑別について

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こんばんは。

これは番外編です。Twitter上で上がった疑問について、

ヒルムーさん(@munimako)からご指名を受けましたのでお答えさせていただきます。

 

 

ご質問内容と回答について

↓ご質問に上がった内容は以下の通りです

 

さて、私の回答ですが、発語失行の場合、中核症状として「構音の歪み」と「プロソディ障害」が程度の差はあれ生じます。発語失行の音の誤りは「音が歪みすぎて結果的に置換した」というメカニズムと考えられているので、歪みがなく音を誤っている場合は、音韻性錯語の要素が強いのかなと思います。またプロソディ障害のまったくない発語失行は、私の知る限りいないんじゃないかな?と思いますので、ヒルムーさんと同意見で、プロソディ障害の有無はとても重要です。以上より、ご質問から推測する限りではありますが、もし構音の歪みとプロソディ障害がまったくないのであれば、発語失行の影響は少ないのではないかと思われます。

 

※ご質問の方の場合は、少し運動麻痺もありそうなので、構音障害の要素が全くないとも言えないかと思います。影響があるのかは、実際にお会いしていないのでなんとも言えないところです。

 

※これは個人の意見ですので、参考程度にしてくださいね。

 

音韻性錯語と発語失行は、まったく違うメカニズムの症候ですが、臨床では両方の症状が合併している可能性が高いので、この場合には難しくなります。成書でもはっきりとした答えはないと記載されているので、ご質問者さんが悩んでも無理はないですし、安心してください。

 

少し長くなりますが、以下に音韻性錯語と発語失行について整理しましたので、興味があればみてください。

 

音韻性錯語とは?

音韻性錯語は、例えば「くす→くす」などのように、音声実現前の音韻の選択・配列の障害が想定されており、仮名書字でも同様の誤りが生じるとされる.

失語症Q&A p7より

 

このように、音韻性錯語は「脳内で音(音韻)を選び間違えている」状態になりますので、表出する手段が話そうと書こうと同じように間違えますよね?これが、発話と書字で同様の誤りをする理由です。

 

発語失行(アナルトリー)とは?

脳損傷のあと,音素の随意的産生のために発話筋群の位置付けと筋運動の系列化をプログラムする能力が損なわれたために生じる構音の障害

Darley et al (1975)より(失語症Q&A p158) 

 

このように定義されていますが、わかりにくいですよね?簡単に言うと、言うべき音韻を脳内ではわかっているのに(音韻は選択できている)、また発声発語器官の運動麻痺でもないのに、口とか舌とかをどのように動かせば良いのかが分からずに「構音」を誤るのが発語失行です。純粋例の発語失行(純粋語啞)は、書字にまったく障害がでない例も存在するので、書字ではよどむことなく正常にかけます(非常に稀だと思いますが)。

 

 

病巣部位について

それぞれ、発語失行は左中心前回下部、音韻性錯語は左縁上回が責任病巣として重要視されているので、病巣部位が限局されていれば確かに悩まないかもしれませんね。でも自信満々に言われると、逆に疑いたくなるのは私だけでしょうかね?笑

ただはっきりと言いたいのは、病巣部位はあくまで参考です!病巣としてCTやMRIで現れていても、脳血流SPECTなどで血流低下があれば障害が出現する可能性もあります。もちろん重要な情報ですが、これで答えが分かると安易に考えるのは危険だと思います。病巣部位にとらわれ過ぎて、大事な症状を見逃してしまうことだってありますので。

さらに両者の症状が合併した場合が、これまた難しいんです。なぜなら左中心前回から縁上回まで広く損傷されていた場合、病巣部位では答えがわからないですよね。その場合は、患者さんの症状を詳細に観察するしかありません。

 

両方の症状が合併する場合の鑑別について

この場合が1番難しいので、こんな可能性があるよ!といったものの代表的なことを3つ紹介します。ただこればかりは患者さんの症状によって異なるので、各施設で複数のSTが相談したり、地方会などの症例検討などもご活用されると勉強になると思います。

 

ポイント①発話と書字の違いについて

発話と書字で音の誤りが同じように誤るのか、それとも違うのかは鑑別にとても重要です。音韻性錯語は、「脳内」で話すべき音(正確には音韻)を選択・配列する過程の障害ですので、この場合は発話と仮名書字とで同じように誤ります

発話と仮名書字でまったく違う誤りの場合には、仮名の失書を合併している可能性がありますので、ご注意ください。

 

ポイント②構音の歪みプロソディ障害の有無

上述しましたが、発語失行で構音の歪みやプロソディ障害がでないことは、基本的には考えにくいです。

 

ポイント③単語と非語の復唱評価

発語失行は、あくまで構音の運動に関する障害ですので、言語の刺激による違い(例:単語と非語)で差は出ません。一方、音韻の選択・配列に問題がある場合は単語に比べて非語で顕著に音韻性錯語が増加する場合がありますので、重要なヒントになるかもしれませんね。

※語音弁別障害がある場合は、音読を使うなどのことも考慮しましょう。

 

この辺りを観察するのが、発語失行と音韻性錯語の鑑別はもちろん、患者さんの支援に繋げる上で大事かと思います。どちらも合併している場合には、「あり/なし」ではなく「どちらの要素が強いか」を見極める努力をすることが重要と考えられます。

 

まだまだ他にもあるのですが、この辺にしますね。笑 

多くの新人さんや学生さんが、よりよい支援をできるよう、可能な限りご協力したいと思っていますので、今後ともお願いいたします。

 

⇩引用・参考書籍

失語症Q&A 検査結果のみかたとリハビリテーション